パネル討論      日 本 文 入 力 法 の 将 来 像            − − − − − − − − − −                 神 田   泰 典                 ( 富 士 通 ) 1) 日本文入力とは何か 日本文入力を各過程にわけると図1のようになる。       +−−−−−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+       |原稿作成   |     |入力     |     |処理     |       |       | 文字  |       | コード |       |       |  人間   +−−−−→| 入力装置  +−−−−→| コンピュータ|       |       |     | (人間)  |     |       |       +−−−−−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+                    図1  日本文入力の過程              −−−−−−−−−−−−−− ・原稿作成 人間が原稿を作る。原稿は紙に書いた文字の形で表現されている。 ・入力   原稿を見て入力する。原稿はコンピュータのコードに変換される。 ・処理   編集,レイアウト,EDP処理,印刷など。 日本文入力は,この入力装置を使う入力の過程を主たるテーマにしてきた。 しかし,今後は原稿作成の方にもっと目を向けるべきであろう。     −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   もうすこし詳しく過程を見てみよう。       +−−−−−−−+     +−−−−−−−+       |原稿作成   |     |入力     |       |       |     |       |       | 人間    |     | 人間    |       +−−−+−−−+     +−−−+−−−+       | 目 | 手 |     | 目 | 手 |       +−−−+−+−+     +−−−+−+−+         ↑   ↓         ↑   ↓       +−+−+−−−+     +−+−+−−−+     +−−−−−−−+       |文字 |鉛筆 |手書き  |文字 |鍵盤 |     |処理     |       +−−−+−−−+ 文字  +−−−+−−−+ コード |       |       |       +−−−−→|       +−−−−→|       |       | 紙     |     | 入力装置  |     | コンピュータ|       |       |     |       |     |       |       +−−−−−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+               図2  日本文入力の過程の詳細              −−−−−−−−−−−−−−−−− a) 原稿作成の過程  原稿は人間により作成される。作成の意図は人間にあり,原稿用紙にむかって,鉛筆で原稿を作成する。 原稿作成作業の特徴は ・原稿はあらかじめ,正確に決っているものではない。書きながら決ってゆく。 ・思いついたアイデアを文字で,原稿用紙に書く。 ・書きつつある原稿を見ながら,次を考える。 ・書きつつある原稿を見ながら,修正する。 ・何回も読み返しながら,完成に近付く。 ・人間の思考にとって,原稿用紙は思考のループ回路の一部分をなしている。 ・原稿の内容の善し悪しが最大の関心事。                                                ・ b) 入力の過程 手書き原稿をみて,それを読みとり,入力装置を操作して入力する。 入力過程の特徴は ・原稿はすでに正確に決っており,変更の余地はない。 ・原稿を如何に正確に,如何に早く入力するかが最大の関心事。 外見上は原稿作成も入力も人間の作業としては似たように見えるがその内容は全然違う。 2) 作成済み原稿の入力 原稿の文字を機械が判読できればよいので,機械による文字認識が理想。   手書き文字認識装置を利用すれば       +−−−−−−−+       |原稿作成   |       |       |       | 人間    |       +−−−+−−−+       | 目 | 手 |       +−−−+−+−+         ↑   ↓       +−+−+−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+       |文字 |鉛筆 |手書き  |入力     |     |処理     |       +−−−+−−−+ 文字  |       | コード |       |       |       +−−−−→|       +−−−−→|       |       | 紙     |     | 文字認識装置|     | コンピュータ|       |       |     |       |     |       |       +−−−−−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+                    図3 手書き文字認識装置の利用              −−−−−−−−−−−−−−−−− しかし,機械の認識能力には限界があり,現状では用途は限定される。 現実には人間が文字を読んで人間が入力している。 入力作業は人間が文字からコードへの変換作業と考えることができる。 入力に要求される特性。   ・ 入力のスループットが高い → 人間や機械当りの効率   ・ 入力誤りが少ない     → 入力の誤り率   ・ 訓練がなるべく簡単,オペレータが容易に得られる。   ・ 装置の価格がなるべく安い 入力のための入力方法としては,漢字を直接に入力する方法が現在主として用いられている。 原稿は既に,かな漢字まじりの文章になっており,これを正確に入力するにはそのまま一文字ずつ入力した ほうが直接的だからであろう。 漢字入力の方法は種々あるが,どの方法にせよ単に効率を考えるあまり人間性を無視するようなことのない ようにすべきであろう。                                                ・ 3) 原稿の作成の将来 これが本来人間がするべき仕事。現在では考えるために紙と鉛筆を使っている。 紙に記録することも重要だが,作成の過程で考えることも重要なことである。 考えた結果はそのまま機械に利用できる姿になれば,理想的である。       +−−−−−−−+       |原稿作成   |       |       |       | 人間    |       +−−−+−−−+       | 目 | 手 |       +−−−+−+−+         ↑   ↓       +−+−+−−−+     +−−−−−−−+     +−−−−−−−+       |表示 |鍵盤 |     |入力     |     |処理     |       +−−−+−−−+印刷文字 | 入力装置  | コード |       |       |       +−−−−→|       +−−−−→|       |       |ワード    |コード  +−−−−−−−+     | コンピュータ|       | プロセッサ +−−−−−−−−−−−−−−−−−−→|       |       +−−−−−−−+                   +−−−−−−−+                    図3 原稿作成にワードプロセッサを使う              −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 原稿を作るときにワードプロセッサを使うと ・文章を考えながら,修正や変更ができるので原稿の作成が非常に容易になる。 ・印刷した出力は手書きよりも見易いから,良い原稿になり,入力も楽になる。 しかし,もう一歩進めてワードプロセッサからコード情報を出力すれば,従来の入力の過程を省略すること ができる。 現在では原稿は手書きなので印刷の原稿は原稿用紙でくるが,フロッピィになれば入力する必要はない。 小説家や新聞記者がワードプロセッサで文章を書けば,印刷工場ではそのまますぐに編集作業にかかれる。 原稿作成のための入力法 文章の本質は言葉である。原稿の作成には話し言葉に関連が深いので,発音記号のような「かな」で入力す るのが,自然なようである。   1 かな漢字変換が有力な候補    鍵盤でかなを入力して,辞書を用いて漢字かな混じり文を作成する方法が現在の所では最適ではない    かと思う。   2 音声入力もよいのかもしれない。    一般の人は音声入力に期待が大きいが,実現にはまだ時間がかかる。    話し言葉の入力には認識の問題以外になお幾多の問題点もあるようだ。   たとえば     ・ 話し言葉と書き言葉とは本来違う     ・ 制御キーは言葉では難しいから,鍵盤との併用か?     ・ 正確に長時間,機械の前で話せるか?   3 ディクテーションを活用しても良いのではないか?        音声で原作者が原稿を作り,入力する人がそれを聞いて入力する。    ディクテーションは,原稿の文字を忠実にコードに変換する作業よりもずっと知的な作業なので,    従事する人にとってはより知的な興味の持てる作業になる。                                             ・ 4) 人間の能力 人間には本来出来ることと出来ないことが割合はっきりしているようで,できないことをやろうとする試み は当然うまくゆかない。従って訓練には限界がある。 訓練には人間の特性に叶ったものでないと駄目だ。 原稿の作成のために道具としてつかう場合と入力を目的とする場合とでは違う。                +−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+                |  原稿の作成      |  原稿の入力      |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  目的      | 作成する道具として利用 | 入力することが仕事   |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  訓練      | 人間的に無理のない程度 | 限界まで可能      |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  評価の観点   | 原稿の内容       | 入力の速度,正確さ   |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  好き嫌い    | 楽しくないと使わない  | 嫌々でも使う      |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  玄人/一般   | 一般の人(素人ではない)| 玄人,専門家      |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+     |  運転手の例   | 自転車,自家用車    | 新幹線,バス,トラック |     +−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−+               原稿の作成の場合と原稿の入力の場合との違い         −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 玄人の使う機械は『嫌々でも使う』というパターンになりやすいので,心理学的な考慮が必要。 5) 日本人はキーボードに対する違和感が強い。  キーボードへの違和感のためか,他の方法への期待が高い。 1 音声で入力できないか? 2 手書きの文章が入力できないか?  →速度に限界がある。   手書きで原稿を書くことは人間にとってもやはり負担であり,機械に読めるような正確な文字で書くと   なると,速度には上限がある。  日本文入力のためにはキーボードは確実で,しかも人間にとっても都合の良いインターフェイスである。 案外,将来的にも最適のものなのかもしれぬ。  マイコンの一般化などから,将来は日本人もキーボードに違和感がなくなり,日本文入力にもキーボード が広く利用されるようになるだろう。                                           以上 この論文は,筆者が原稿の草案の段階から 日本語電子タイプライタ「OASYS 100」を 操作して作成したものです。