データ名:親指シフト論議(880522-880607)    ID:SDI00336 登録日付:88/06/26   属性:テキスト  バイト:121216   参照:33 補足説明 これは,people会議室において,1988年 5月22日に書き込まれた 親指シフトキーボードをめぐる富士通への質問を発端にかわされた キーボード論議のサマリーです。富士通株式会社の正式回答をはじめ 注目すべき発言が記録されています。必見! 古瀬幸広(Plato, SDI00336) ........................................................................... 242/386 SHB00052 神田 泰典    福田さんの質問に答えて 88/05/23 15:06 235へのコメント コメント数:3 福田さんへの回答 ・第三者からみると富士通には親指シフトキーボードを積極的に普及させようという 意欲が見られない?  意欲は充分あります。このレスポンスをいれるのもその一部だと考えてください。 富士通は本気です。本気でなければ、もうとっくに止めているでしょう。  もっと積極的にやれという励ましの言葉をありがたく受け止めます。 ・富士通に於ける親指の地位は?  文章作成では重要な地位にあります。社内のワープロは勿論オアシスですが、全員 親指シフトキーボードを使用しており、これは社内の業務にどれほど役立っているか は計りしれないでしょう。  当社では書記さんという庶務的な仕事をするお嬢さんがいますが、彼女らはワープ ロを親指シフトキーボードで使っています。彼女らはパソコンを使いませんので英語 は全然必要ありません。本社の受付には会議室の管理用のオフコンの端末があります が、やっぱり親指シフトキーボードです。(これだけでも、富士通は他社と比較して 事務効率がよいと思います。)  また富士通のパソコンFMシリーズにはOAKというカナ漢字変改のフロントエン ドがついていますが、これは親指シフトキーボードが標準です。また、FM−OAS YSというオアシスをそのまま移植したワープロをサポートしており、これは親指シ フトキーボードが標準です。  富士通のパソコンの宣伝でも、親指シフトキーボードの接続された写真を用いてい ます。私の事務所には荻野目慶子さんの大きなポスターがはってありますが、これに は親指シフトキーボードのついたR70と30BXの写真が写っています。  また、オフコンやワークステーションやホストの端末にもすべて親指シフトキーボ ードモデルがあり、選択して使うことが出来ます。  以上のようなわけで、富士通社内では日本語入力では親指シフトキーボードを使っ ております。しかし、コンピュータは従来主として数値計算のために用いられてきま した。このような分野では日本語の文章の入力は殆ど使われておりません。金融機関 でも、現在のコンピュータの応用は数値情報が大部分です。そのような場合には、キ ーボードはJISでもよいわけで依然として使われているのが現状のようです。  プログラマも従来は日本語は必要はないのてJISを使っている場合も多いと思い ます。しかし、ドキュメントの日本語化が進み、ホスト関係のプログラマでも親指シ フトキーボードを使うようになってきました。  私が親指シフトキーボードを開発した動機として、日本におけるプログラムの生産 性の低さが有ります。日本のプログラマに親指シフトキーボードで日本語でプログラ ムを作成してもらって、欧米と競争するというのが目的でもあります。 質問に答えましょう。 ・他社から親指シフトキーボードが出ないことについて  積極的に働き掛けているが乗ってこないからというのが実情です。商品差別化の手 段として有効だから独占するという意志はありません。他社に親指シフトキーボード を公開する用意はあります。このような意志表示を従来もしてきましたし、今ここで 再確認します。親指シフトキーボードは日本人のためのキーボードで一メーカの独占 物ではありません。  アスキーの親指君は一つの例ですが、これらの経緯を見ても他社で採用するのには それなりの決心が必要だということがよく分かります。アスキーでは出版社として親 指シフトキーボードを御使用になっており、パソコンでのマンマシンインターフェイ スの共用ということで、まず社内での利用を考えて、親指君の開発に踏み切られた事 情があります。  ベータ・VHSの議論がでますが、この問題とは根本的に違います。このような規 格は統一されておればよく、どちらが特によいということはないと思います。だから 技術的には優位?といわれたベータが劣勢になったのです。キーボードは人間の使う もの(マンマシンインターフェイス)です。良いか悪いかが絶対的です。 ・JISを併売しているのは?  基本的にはキーボードはユーザーの選択に任せているというのが考え方です。JI S以外にも新JISも発売しています。  富士通としては親指シフトキーボードはこんなによいと宣伝し説得しながら、各種 のキーボードを販売しています。  親指シフトキーボードの割合ですが、oasysLite の系統は最初のうちは全部親指シ フトキーボードで発売しておりました。現状ではJISも併売しております。 現状ですと、全体的に見て7割くらいが親指シフトキーボードだと思います。  官庁や学校などでは、キーボードとしては親指シフトキーボードの良さは認めるが JISを使わないといけない、また親指シフトキーボードだと富士通というメーカー の専属になるというふうな発想から、みすみす親指シフトキーボードの良さを認めな がら、公的は局面としてJISを採用しているところが数多くあります。最近特にワ ープロが大量に導入されるようになったのですが、他社の営業担当者がキーボードの 良い悪いよりも、JISであるかないか?ということを強調しているので、世の中で はみすみすJISカナは使えないというのを知りながら買っている団体もあるようで す。  我々としても親指シフトキーボードでなければ、ワープロは売らないというような ことは言いません。JISでもまず使ってもらって、親指シフトキーボードの良いと ころを説得して親指シフトキーボードを使ってもらうように努力しています。  (JISキーボードを推進している人達も、JISカナを推進するのではなくてロ ーマ字入力を推進している人が大部分ですね。ローマ字なら親指シフトキーボードで も同じ条件なのです。) ・親指シフトキーボードの今後について  親指シフトキーボードをわが国の標準キーボードにすべく働きかけてゆく。という のが基本的な態度です。 ・親指シフトキーボードの適用対象について  あくまでワープロに特化せず、汎用キーボードと位置づけるというのが態度です。  日本語を入力するキーボードとして、現在のJISカナは親指シフトキーボードに くらべて使いにくいというのははっきりしております。(もちろんローマ字入力も使 いにくいのです。) ・キーボードのあり方について  基本的には操作性が互換性に勝ると考えておりますが、操作性のよいものに統一さ れるのに越したことはないでしょう。  日本語を入力する局面を考えると、キーボードはワープロに限定されるべきもので はありません。プログラム作成の分野でも、今後日本語によるプログラム作成が進む でしょうから、日本語入力キーボードはソフト産業にとっても重要なものとなるでし ょう。  日本人が機械を介し意見を述べたり、考えたり、発想したりするのに使うキーボー ドとして日本語入力の容易なキーボードが今後ますます大切になるでしょう。  操作性を研究する公的機関が必要でその結果で推進すべきだというのも、議論とし てはなりたつでしょうね。しかしそのようにして出来た新JISの現状を考えるとな かなか理屈通りには行かないようですね。新JISは日本の公的機関で研究され、ワ ープロのメーカの大多数の賛同を得て制定されたキーボードなのです。 ・操作性の考えかたについて  親指シフトキーボードを開発するに当たって考えたのは、速度ではありませんでし た。日本人が英文タイプライタのように使えるようなキーボードが欲しいというのが 発想です。速度はなるべく早く、操作もなるべく覚えやすいにこしたことはないが、 日本人が使ってブラインドタッチで、自然に使えるものというのが目標でした。  幸い親指シフトキーボードは入力は早いのですが、速度という意味では連想式のほ うが早いと思います。しかし連想式は不自然なのです。  またローマ字入力(キーボードの話ではありませんが)の良くない点は、速度が遅 いというよりは、むしろ不自然であるというのが最大の欠点です。日本人は日本語を カナで表記し、ローマ字を使っておりません。これが不自然のもとなのです。  日本人がカナ漢字まじり文ではなくて、ローマ字漢字まじり文で日本語を書いてい るのなら、ローマ字入力がたとえ遅くともそちらの方がよいと思っております。            富士通 情報システム本部技師長 神田 泰典 243/386 SHB00052 神田 泰典    池田さんの発言に対して 88/05/23 15:09 239へのコメント コメント数:2 池田さんの発言に対するコメント  話が直接的になってきましたので、小生がコメントいたします。 富士通は大きな会社です。「初めはまともに取り扱ってくれませんでした云々」の経 緯は残念なことです。  今度は直接私にメールください。貴殿との間に何人もの人が入っており、なかなか うまくいかなかったようですね。富士通の営業も担当が細分化されており、営業の担 当者(この場合は部品営業ですが)に富士通として行動せよというのも可哀そうなこ ともありますので。  どうでも良いことですが「猿の議論」は話が反対ですのでコメントしておきます。 猿も人間も親指が対向しております。親指シフトキーボードを使うのは猿と同じなの です。親指シフトキーボードを使わないのは猿だ、ではなくて親指シフトキーボード を使うのは猿だということになります。  しかし、これだけのヒステリックな議論のでるのが親指シフトキーボードの魅力で しょう。池田さんにも是非使って見られることをお勧めします。  マンマシンインターフェイスのことは頭で議論しても限度がありますね。  さて欠点に対するコメント まず池田さんは親指シフトキーボードかJISではなくて、ローマ字入力か親指シフ トキーボードカナ入力かの議論のようですね。  JISカナが駄目だというのなら、それをはっきりしてから議論したいのです。も しそうなら、JISキーボードなのだが、カナは使えないのでローマ字入力しかでき ませんと、はっきり世の中に言う必要がありますね。 (ワープロメーカの中でも、確かキャノンさんは最初からローマ字入力をはっきり押 し出しておられます。) ・マスターに時間が掛かる。  ローマ字の方が早いと思います。しかし、マスターに時間がかかろうともそれ以降 は一生使うのですから、少し位の差なら問題は無いはずというのが私の意見です。 自動車の運転だってそんな簡単ではありませんよね。  エプソンが対象としているユーザは云々のことは、本質的な問題です。パーソナル ワープロの大部分はいたずら半分で使うようなことが多いと思います。このような場 合には仰るようなことになるでしょう。富士通でも店頭ではJISの方を売っており ますし、販売店からも店頭では親指シフトキーボードなんか売れないと言われている のも現実です。  しかし、コンピュータは今後もっと進歩します。日本人はコンピュータを知的な道 具としてもっと使って行くでしょう。今日みるように、ワープロが普及しました。 (正しくは普及させました)富士通では女子職員は全部親指シフトキーボードを使っ て、仕事をしています。これだけでも富士通はよその会社に比べて能率がよいのでは ないかと思うくらいです。  パソコン通信が広がってきました。パソコン通信では、自分で手紙を書いたり、チ ャットしたりします。この場合にはキーボードの使いやすさが致命的に効きます。  というようなわけで、今後日本人もだんだんといたずら半分ではなくて、真剣にキ ーボードを使うことになるでしょう。その時にはやはり、良いキーボードを使った方 が良いのです。富士通はエプソンさんとは違った会社です。富士通としては情報処理 産業全体が適切に伸びることを望んでおります。富士通としてはワープロの売上金額 をとってみると、富士通全体の極く僅かな部分でしかありません。それでも尚且つ重 要だと考えているのは、日本人とコンピュータとの接点としてなくてはならないもの だと考えているからです。  我々は我慢づよく普及につとめてゆきます。ワープロの普及やパソコン通信の普及 は親指シフトキーボードの普及には順風なのです。ワープロの検定では親指シフトキ ーボードの方が明らかに優位ですので、最近女子大学生で広がっている、資格として のワープロ検定取得には親指シフトキーボードが選ばれています。またチャットで議 論をするのには、自分の思っていることをどれだけ早く適切にキーボードで入力する かにかかっています。これでも親指シフトキーボードは絶対的に有利です。 ・日本語しか入力できない。  これは当然ですね。しかし日本人は本来英語なんか入力しなくてもよいのです。コ ンピュータを使うのに英語を使わないといけないのはおかしいのです。  ローマ字入力の隆盛の一つに、パソコンがあります。パソコンではまず英語が使え ないと駄目でね。それでパソコンを使っているひとは殆どの人がローマ字入力を使っ ています。 ・両手を使えない人は使えない。  これも当然ですね。人間の手の機能を最大限引き出したキーボードですから、障害 のあるひとに使えないのは至極当然です。 ・親指の位置にキーボードが出っ張る。  本来は親指シフトの位置にシフトバーがあり、親指シフトキーボードだから出っ張 るということはないと思います。我々は変換キーを親指の下においているのでその分 が出っ張るのです。富士通のワープロやパソコンではJISキーボードのものでも 変換キーがでっぱっているものもありますよ。  機械を作るのに障害になるのは小生もよく理解できますが。  最後に一言 池田さんは親指シフトキーボードを実際にお使いになりましたか?メーカの立場を離 れてやってみられては?  やってみて、こんな欠点があるという御意見も是非聴きたきのです。              富士通 情報シテスム事業本部技師長 神田 泰典 PS  昨晩NHKの番組批評のテレビで三浦朱門さんが、100J(これは昭和  57年位の機種です)で親指シフトキーボードで原稿を作成しておられました。 253/386 SHB00052 神田 泰典    親指シフト 福田さんの質問に答えて 88/05/24 14:27 246へのコメント コメント数:2 福田さんよりご質問がありましたので、早速お答えを書くことにします。   まず、最初に状況をはっきりさせておきたいと考えます。 議論の前提   この議論は福田さんの質問の内容からすると、ローマ字入力が良いか親指シフト キーボードを使ったカナ入力が良いかが議論の中心です。   改めて断る理由は、世の中にはJISカナで日本語を入力するのが正しいといっ ている人がおり、その場合とは違った議論をしなければならないからです。この場の 議論としては、JISカナのカナ入力はブラインドタッチができないので実用上使え ないという前提で議論します。   JISキーボードは英文の標準にくらべて1カラム多いので、右がわのシフトや 改行などのファンクションキーが一つ外側になっていますので、英文キーボードでロ ーマ字入力をするよりは使いにくいという欠点があります。   親指シフトキーボードはJISよりもキーボードの横が一列少なく英文の標準と 同じです。    つまり、親指シフトキーボードはカナ入力に適したカナ配列とローマ字入力も 英文キーボードと同じようにできるキーボードであり、一方JISキーボードは歴史 的には意義があるが、いまや実質的には使われなくなったJISカナ配列と少し使い にくいローマ字入力のできるキーボードであるということがいえます。   さて、他社から親指シフトキーボードが出ない理由についてですが、アスキーの 親指君がでましたので、全然ないということはありません。現在ではパソコンがワー プロとして使われている局面が多く、パソコンでの選択ができるようになったのは意 義が大きいと考えております。   どうしてそれでは他社が出さないか、これは技術論ではなくし私の個人的な感想 ですが、少し書いて見ます。   「親指シフトキーボードを使うと富士通の軍門に下ったような印象を受ける。い ままで、全然駄目だとか、JISでないから駄目だとか言っていたのに前言を翻すこ とになるので営業的な打撃が大きい。」ということがあるでしょう。これはワープロ のメーカーとしては、想像されるところで、むしろパソコンのほうが直接的な影響は 少ないと考えています。   しかし、一番私が肝心だと思うのは、メーカ自身が親指シフトキーボードの優位 性を納得していないということです。その理由はそこまでもって行けない富士通が悪 いと思っております。だから「どうして頭を下げてでも使った下さいと頼まないか」 というお叱りには、声もありません。今後は悔い改め、頭を下げて「使って下さい」 と頼んでまわることにします。   池田さんに改めにお願いします。もう一度検討していただき、是非使ってくださ い。   メーカー側で納得していないというのは、池田さんの書込みに象徴的に現れてお ります。(池田さん材料に使ってごめんなさいね) ・世の中ではなにかしらんが評判は良さそうだ。 ・一部の顧客からは是非付けて欲しいと言ってくる。 ・コンテストや検定でも成績が良いようだ。 ・使っている人は喜んで使っている。  ということで、検討を始められるのですが、結局は ・マスターに時間がかかる ・日本語しか入力できない。 ・両手でないと使えない(ローマ字だって両手を使うので少し違う?) ・親指の位置にキーが出っ張る。   などを欠点としてあげて採用にはならないようです。   池田さんのところでは、わざわざ親指シフトキーボードの試作までされたようで すが、これらの欠点は試作とは無関係なように感じます。これらの欠点は最初から分 かっていることなのです。   事実関係は想像する以外にありませんが、親指の位置にキーが出っ張るというこ とがキーボードの設計、ひいては装置の構造の設計に影響があり、違った構造の考慮 をしなければいけないので、設計サイドからは抵抗があったのではないかと考えてお ります。もちろん、営業的な判断が大きかったのでしょう。   話は変わりますが、通常コンピュータ業界では一般にメーカーは自分自身では製 品を使わないものです。富士通でも銀行端末等を作っていますが、我々ば銀行ではあ りませんので、直接使うことはなく顧客からの注文に応じて作っています。   このようななかで、ワープロだけは特異な装置でしょう。富士通が販売を始める 前から、我々の開発部隊で使っていました。オアシスの開発は小生が自分で使うのも 一つの大きな目的でした。自分で使って周囲を説得して、富士通で商品化するまでに こぎつけました。   よく業界の方とお話をすることがありますが、実際に自分では使っておられない ような方もいるようです。また、うちの部下は全然使わないからダメだとこぼす上司 の方にも時々出会います。   富士通では開発部隊から出発したオアシスは全社で使われるようになりました。 親指シフトキーボードもそれに従って普及しています。社内での多量の文書も、若し 親指シフトキーボードが無かったら処理することが出来ないでしょう。富士通社内で は親指シフトキーボードが常識になっています。前回にも書きましたが、これは富士 通の事務効率に莫大なメリットをもたらしていると思います。なにせ、男性も使いま すが、女性も沢山使っているのです。   このようなことを長々と述べたのは、親指シフトキーボードの良さをキーボード を触ることなしに説得する難しさを言いたかったのです。   ワープロも業務用はともかくとして、パーソナル機のかなりの部分はまだ遊び半 分といった用途に使われております。このような場合には、キーボードはさほど重要 ではないでしょう。むしろ店頭では、いろいろな機能などが重視され、日本語の入力 のし易さは大きな部分ではないのが現状のようです。   そういう意味から、パーソナルワープロの商品化に当たっては、何も無理をして 親指シフトキーボードを採用するよりは、イメージリーダだとか毛筆体とかのキャッ チフレーズがよいとの営業的な判断があるものと想像しております。   というような訳で、他社が親指シフトキーボードを出さないのは、営業的に見て 日本語の入力がさほど営業的に見て効かないのと、多分親指シフトキーボードの良さ を本当には御存知ないのではないかと想像しております。   さてJIS併売についてですが   最初昭和55年に発売したときには、50音キーボードとJISと親指シフトキ ーボードの3種類を発売しました。もちろん、親指シフトキーボードの良さを主張す るのですが、我々としては親指シフトキーボードでないと売らないというわけにはま いりません。というのは、オアシスというワープロの良さは親指シフトキーボードが 付いているということだけではないのです。   オアシスライトの時やオアシス30AFの時には同時に両方作るのが大変なので 親指シフトキーボードだけでした。のちには選択できるようにJISも発売しており ます。   学校や地方公共団体では、JISを使わないといけないのと富士通しかないので 将来富士通に従属してしまってまずいというような理由から、キーボードの良し悪し を別にしてJISを採用しているところがあります。これは現時点では説得不可能で 、そんなユーザーに「それではお売りできません」とは言えません。   一寸福田さんの書込みで問題のあるのは、親指シフトキーボードとJISとを比 べて、ローマ字入力のできるJISが選択されるということですが、どちらでもロー マ字入力はできる(親指シフトキーボードのほうが有利だが)のです。   多分店頭では何も説明されずに、これは日本の標準のJISですと販売されてい るだけだと想像します。もちろん素人がキーボードの優劣を簡単に評価できません。 だから、いろいろな実績をもとに2〜3週間で慣れますといっている丈です。これは 人間一生の問題ですから、一度やってしまえばそれだけなのです。   少し不思議に感じるのは、以前はJISカナと親指シフトキーボードカナとの比 較でこのような議論を散々しました。現状では、JISカナでの日本語入力は使い物 にならないという世論ができたようですね。これはワープロがそれだけ普及した結果 だと評価しております。つまり、JISキーボードでも実際には殆どがローマ字入力 で使っているということです。   富士通が親指シフトキーボードだけを発売して、これしかないと言って与えてし まえば良いというのは、理屈のようですが、富士通が親指シフトキーボードと良いと いっても、他社がJISが良いといっておれば問題は何も解決しません。(しかし、 身内で阻害しているいう意見は、親指ファンから強く言われているのは事実です)   親指シフトキーボードを開発して推進してきたものとしては、かなり普及してき たなという気持ちです。いろいろな実績でまず社内に広げ、製品にして、オアシスを 販売して、富士通のオフコン、パソコン、ワークステーションにつけて来ました。   これらはコンピュータによる日本語の処理の普及と併せて進んできたもので、日 本語の処理を真剣に考えると、その良さが光ってくるのです。コンピュータによる日 本語の処理もまだまだ初歩的段階です。日本語でプログラムを作ることは現在ではま だ夢のような話です。しかし、MINDという日本語プログラム言語も出現して、話 題を呼んでおります。MINDのようになものが広がるようになると、どうしてロー マ字入力なんか使っているのだろうということになるでしょう。   いま考えることは、テクノロジの進歩はありましたが、基本的なマンマシンイン ターフェイスであるキーボードの環境は昭和55年の発表の時から特別変化していな いということです。そのなかで、少しづつ真実がはっきりしてきたと言えます。   JISカナによる入力を推進する人はいなくなりました。また、JISとして正 式に「仮名漢字変換型日本文入力装置用けん盤配列JISC6236」制定されてい るいわゆる「新JIS」もはなはだ旗色が悪いのが現状です。   皆様方の御意見を受け入れて、今後も普及を進めて行きたきと考えております。   評価データとして一つ手元にあるのは、日本能率協会の実験結果のもので ローマ字入力、親指シフト入力、JIS入力を初心者を使って訓練したものがありま す。  「ワープロらくらく速習法」大島章嘉・銘子著 昭和60年9月日本能率協会発行 という本です。内容を少し紹介しますと(詳しくは本書を参照してください)   同じオアシスで、キーボードとして親指シフト、JIS、ローマ字の3つをワー プロ未経験者の20〜30才の女性を10名選んで、テストをしました。   個人差をなくするために、全員が2つの入力方式をおのおの4週間一日2時間ず つ行いました。   試験問題はPHPより抜粋した随筆風の比較的やさしい文書を選びました。   結果としてはこの本にはグラフが出ております。練習時間に対する入力速度を 私が今読みとって、数字で表にすると(文字/分)         10時間   20時間  30時間  40時間   親指    33     50    62    76   JIS   28     42    52    65   ローマ字  24     32    42    53   のようにローマ字の成績が一番悪いという結果がでています。   ローマ字入力は2〜3時間までは覚える文字数が少ないこともあって他の入力方 式に比べて入力速度は早いのですか、その後は向上しません。これは打鍵数が多いの と、日本語をローマ字に変換することを頭の中で行うことが、英語を使い慣れない人 にはマイナスに利いているようです。・・・とこの本には書いてあります。   また、被験者の感想もあります。ローマ字と親指シフトキーボード入力を両方や った5人の意見では   親指の利点として   ・一度で出る。   ・完全に覚えてしまえば、頻度の高い文字が真ん中にあるのでブラインドがやり    やすい。   ・覚えれば早く打てる。   ローマ字の利点としては   ・覚えるキーの数が少ない。   ・リズムがとりやすい。   親指の欠点としては   ・覚える文字が多いので、覚えるまでに時間がかかる。   ・とっつきにくい。   ・親指の動きに慣れるまでとまどいがある。   ローマ字の欠点としては   ・2回おさないと文字がでない。   ・早さは期待できない。   ・濁音や促音が打ちにくい。   結論として、5人の内4人は親指シフト派、1人がローマ字派となっています。                        富士通  神田 泰典 300/386 SHB00052 神田 泰典    親指シフトキーボードの論文 88/05/30 11:47 289へのコメント 親指シフトキーボードの論文について   親指シフトキーボードならびにオアシスは昭和54年のビジネスショウに参考出 品しました。そのあと情報処理学会に発表しました。   昭和54年度情報処理学会第20回全国大会 1F−5  「親指シフトキーボード」675頁   神田泰典 白鳥茂男 中山泰 田中英雄 池上良己  (富士通株式会社) 1.まえがき  かな漢字変換方式の日本語タイプライタではかなの入力方式が重要   なポイントである。(当時はいろいろな入力方式があった) 2.キーボードの条件  ・かなとアルファベットが入力できることが望ましい。  ・アルファベットは従来のものが望ましい。  ・キーボードは3列にするのが望ましい。 3.手の運動機能   これまでの実験*により、親指の他の指との同時打鍵は容易である。 4.親指シフトキーボード   入力方式の説明   キー配列の決定 文字の出現頻度と連接出現頻度を考慮した。 5.打鍵実験   6人が一日1.5〜0.5次回の練習を1月間行った。   結果  ・文字キーは完全にタッチメソッドで打てる  ・文字キーとシフトキーを同時に打つのは、キーを単独で打つのと同じ感覚で自由   に行なえる。  ・打鍵速度は、区切りキー(注変換キーのこと)濁音文字、半濁音文字を1文字と   して80〜180文字/分である。  ・学習は思ったほど困難でなく、10〜15日の練習で約半数の文字が無意識に打   てるようになっている。 *「人間にふさわしいかな入力方式の考察」 神田 池上   53年度情報処理学会全国大会 67〜68頁   以上が概略で、キーボードの配列は図になって掲載されています。   また、この論文は試作した装置で打ったもので、当時は手書きの論文がほとんど   の中で、綺麗にワープロで印刷されたものです。   また、この前の論文が「1F−4 日本語タイプライタ」というオアシスの試作   機のことを発表した論文です。   開発の経緯は拙書 「コンピュータ 知的道具考」NHKブックス478にもう すこし詳しく書いてあります。