東京新聞 昭和54年(1979)10月 9日   TEA ブレイク 「百年と三十年」 コンピュータという言葉を耳にすると、時代の先端、エレクトロニクスの華という印象 とともによくわからない難しいものという印象を受ける。一方、自動車という言葉から受 ける印象は自分でも運転できる身近なものということで、コンピュータとは大きな差があ る。  コンピュータは半導体技術により長足の進歩をとげ,性能は向上し価格も下がってきた が、自動車にくらべればまだ不十分である。百万円で自動車は手に入るがコンピュータで あれくらいの大きさの装置では、ゆうにーケタは高い。自動車は雪の降る冬から炎天の夏 まで過酷な条件に耐えるが、コンピュータは空調のきいた部屋でないといけない。  信頼性でも自動車の方が良さそうだ。突然止まってしまったり、ハンドルが抜けるとい った故障はあまりなく、調子が悪くなってもガソリンスタンドにたどり着くくらいはでき る。コンピュータは前兆なしに止まったり間違ったりすることは、そう珍しくなはない。  故障の修理にしても自動車なら自分でもちょっとしたことはやれるし、タイヤの交換ぐ らいはできる。それの方が人に頼むより気楽である。コンピュータの修理は、全部頼まな ければならないから世話がやける。  運転だって自動車の比ではなくジェット機の操縦くらいの難しさはありそうで、素人に は近より難い。オフコンという小型の事務用のコンピュータを買うとメーカー差し回しの 技術者が二カ月も指導してくれる。たとえていえば自動車を買うと二カ月も一緒に横に乗 ってくれて、夜道の走り方、雨の日、山路、果ては遊園地への行き方等々を教えてくれる というありがたいような迷惑のようなことが普通に行われている。  こんなことを考えると百年以上も歴史のある自動車に比べてコンピュータ産業の歴史は まだ三十年しかなく、若い産業であることがわかり、コンピュータが社会に役立つために は、まだやらねばならないことがたくさんあるということで開発に励んでいる毎日である。 (富士通・開発事業部開発技術部長)