この資料は1980年8月1日の日本電子計算機(JECC)ニュースに掲載されたものです。 1980年はオアシスを発表した年で、オアシスの開発の経緯がかかれており オアシスユーザにはおすすめしたい資料です。 親指ポンで漢字に変換   慣れると手書きの1.7倍も可能  日本語電子タイプライタ「OASYS100」開発の経緯                 富士通 開発技術部長  神田泰典 ・・日本電子計算機ニユース  1980年8月1日・・ かな漢字変換の採用  コンピュータの利用分野を日本語処理の分野に拡大するため富士通では日本語情報シ ステム(JEF)を開発した。このときに問題になったのは日本語の入力である。英語 は26文字のアルファベットで表記されるので、英文タイプライタのキーボードで入力 できるが、日本語は漢字を使用しているので英文のキーボードのような入力手段がない  開発に当たっては、原稿の通りに忠実に入力するのではなくて、文章を考えながら入 力することのできる方式を追求したので、漢字を一文字づつ入力する和文タイプライタ 方式や、連想方式は最初から考えなかった。  これまで漢字の入力方法はいろいろ開発されているが、専門のオペレータが原稿の通 りに入力するので、それを採用しても一般の人は使えない。  漢字入力方法を比較検討した結果、音声認識や手書き漢字の認識がすぐに実用化でき ない状況では、かな漢字変換による入力しかないということなった。  今日日本人は漢字かな混じり文に慣れてしまっているので、一旦かなで入力して漢字 に変換することには違和感を持ったり,不自然だと感じるかもしれないが、日本人が文 字を知ったのはつい1500年ほど前のことで、それまでは気の遠くなるような永い話 言葉だけの時代があったのである。そんな意味で日本語を発音で入力するのは本質論と しても正しいように思う。 かなの入力方法  濁音も数えると100種あまりの日本語のかなをどのように入力したら良いか。  1モールス符号=一個のキーによる方法で、訓練すれば、かなり速く入力できる。  250音順の鍵盤=かなを50音順に並べて、指でひとつずつ選択する。キーボード   を見て、入力しなければならないが、取り付きやすいのが特徴。  3楽器のキー(ピアノ等の鍵盤)を指で同時に沢山選択する=かなと音符は本質が違   うようで、ピアノを弾くようにはかなは入力できないようだ。(速記のためのタイ   プライタとしてソクタイプという装置がある。)  4ダイモテープの印字器の方法=回転するダイヤルでかなを選択する。取り付きやす   いが、速度は遅い。(この方式の英文タイプライタが昔使われた) 通常のタイプライタの利用  1条件  ・タッチメソットでかなが入力できるもの、腕の運動よりは指の運動で入力できるも   のがよい。  ・ブラインドタッチのできるもの。   かな漢字変換をするので、結果の文書のみを見て手許は見ない。  ・考えながら入力できるもの。   原稿を見て入力するのではなく、原稿を作るのが目的。  ・速さは第一義ではない。   速いに越したことはないが、速く入力するのが目的ではない。  2英文タイプライタでローマ字入力   不自然。日本語を入力するのに、一旦アルファベットを入力するのはどうも不自然   である。日本人は子音と母音を意識してかなを発音しているのではなくて、100   種のかなを意識しているのが実情ではないだろうか。  ・正書法がなくいろいろな方式の表記法がある。「ね」と「んえ」との区別や「しょ   」と「しょう」の区別などに約束が必要。  ・読みにくい。入力の確認はかなよりも読みにくい。  3JISキーボード  ・四列の配置。アルファベットは26文字で三列の鍵盤配置(30位置)でよいが、   かなは収容できないので、四列(数字の列にかなを割り振る)にして、しかも小指   の外側にも割り振ってある。そのため英文タイプライタのようにはブラインドタッ   チができない。  ・従来のEDPでは扱っていない「ゃゅょっを」も文章を扱う上では必須であるが、   JIS鍵盤ではシフト側になっており非常に不便である。  ・濁音、半濁音は濁点、半濁点をあとで入力するが、どうも不自然。濁音、半濁音が   一度で入力できるのが理想。  ・配列はかなの出現頻度を考慮したものではない。 もっと他にはないか  1同時打鍵の方法    ローマ字の入力で左手で子音、右手で母音を同時に入力する方法の一例を実験し   た。    片手の五本の指から同時に二本を選ぶ組合せは10通りあるから、左手で子音を   右手で母音を選択する方法について実験してみた。これは図に示すように各指にス   イッチがついており、押すか押さないかのどちらかの動作をする。    この鍵盤で練習を二週間ほどした結果、最高入力速度は60文字/分であった。   しかし、使用者の精神的疲労が激しく、10分も打鍵すればキーを見るのもいやに   なった。理由としては   a左右で別々の指を同時に動かすのは運動機能的に無理。   b同じ側の指でも親指と他の指の組合せ以外は無理。   cかなからローマ字に頭の中で変換しなければならない。  2結論としてわかったこと。  ・八本の指で30個のキーを選択するという英文のキーボードは100年の歴史を経   て残った素晴らしいものである。  ・親指は他の指とはかなりちがった働きがある。親指が他の指に対抗して動くのは、   哺乳類でも高級な猿の種類と人間だけである。昔樹上生活をしていたので、技を握   るように親指が特別に発達した。  ・アルファベットの入力のためには現在の英文のキーボードが必要。 OASYS100の誕生  1親指シフトキーボードの誕生    英文のキーボード(八本の指で30位置を選択する方法)を採用してそれに親指   をシフト動作に使うことにした。親指なしと右と左の三つの場合が取れるので、   30×3=90の選択ができる。    かなの出現頻度、及び遷移頻度を考慮して現在の親指シフトキーボードの配列を   決めた。実際に練習してみると、非常にうまくいく。親指との組合せも、特に意識   しないで自然に指が動くようになる。「と」は右人差指、「お」は右人差指と親指   であるが、慣れると全然別のキーを打つ感じになる。三列に全部のかなが収容され   ているので、ブラインドタッチで入力できるようになる。しかも、頻度を考慮して   配列されているので非常に使いやすい。  2変換には親指を使う    かな漢字変換は以前からバッチ処理の形態が研究されている。原稿をかなでコン   ピュータに入力して、コンピュータの辞書やプログラムで自動的に元のかな漢字混   じり文に変換するものである。これは一見自動的でよさそうだが、正しい文書に変   換するのが難しいし、システムとしても大きいものになる。また、原稿を見て入力   する方法なので、原稿を作成するのに使うのは難点である。    このようなわけで、入力するときに人間が変換する区切を丁度英文の単語の区切   のスペースキーのように数えながら、対話式に変換する方法をとることにした。親   指で押すキーとして「変換」と「無変換」のキーを設けて、漢字にするときは変換   をかなのままのときは無変換キーを押すことにした。    変換キーが押されると、辞書を探して漢字を表示する。同音意義語は、変換キー   を押すたびに次のものが順に表示される。一度同音意義語を選択すると辞書を書き   変えて、先頭に戻ってくるので、今度最初に表示される。   従って、二度目は変換キーを押すだけで正しい漢字が入力できる。  3実験システム    昭和54年1月には実験システムが稼動して、実際に自分で使ってみた。予想以   上に使い心地が良く、これなら一般の人に使ってもらえるとの確信をえた。    一回に30分〜一時間で1〜2週間程練習すれば、自由に打てるようになる。慣   れると、かな漢字混じり文で50文字/分の速度で入力できる。手書きでは30文   字/分くらいなので、充分速い。実験システムの経験をもとに改良して、製品化し   たのが55年5月に発表した「OASYS 100」である。 まとめ  日本人はキーボードに慣れていないとか、習慣が違うとかの議論がある。しかし、本 当に使えるものなら良さが認められて、日本人はすべて使用することになると考えてお り、「OASYS 100」は充分にその資格があると思っている。 (文書は「書く」から「打つ」へ。神田氏の原稿は勿論OASYSで認められていた)