日本語電子タイプライタ『OASYS 100』について                        神田 泰典   富士通株式会社 1) オフィスオートメーションと文書  人間の一生を考えてみよう。生れたばかりの赤ちゃんは未だ良く目が見えないが,近く の物を見ることによって,物が認識出来るようになると言われている。一才くらいになる と,言葉が聞いて分るようになり,少しして自分でも言葉が話せるようになる。  小学校に入学するころには,一通りのことは自由に話せるようになる。小学校では,話 し言葉を文字を使って書くことを学ぶ。小学校の一年生から漢字も習う。文字を習う一方 算数では数や計算を習う。  中学校を卒業するころには,普通の日本語は十分読み書きできるようになる。 しかし,科学計算で使うような数学は初歩を学ぶだけだし,それを専門にしない人はもう それ以上は勉強しない。  このように,人間は1. 図形の認識           2. その図形に対応した言葉           3. 言葉よりももっと抽象的な数学 の順番で頭脳が発達してゆくと考えられる。  いっぽうコンピュータは人間とは正反対で,           1. 数式の計算           2. 言葉の扱い           3. 図形の扱い の順に上手にできる。  コンピュータは数字の世界では圧倒的に人間よりも能力が高く,これまでのコンピュー タの利用はこの分野に集中していた。オフィスコンピュータと言われているものでも,実 は数字の扱いが主な仕事になっている。しかし最近のコンピュータの技術の進歩により. 近頃では言葉(日本語)が一般のコンピュータでも扱えるようになってきた。  オフィスオートメーションを考える場合には,オフィスで一番よく使われている文書が コンピュータの力でうまく処理されることが重要である。文書のなかには,文章と図形が 含まれている。コンピュータで図形を簡単に扱うのはまだ困難だが,文章の方は充分可能 になってきた。米国においては既に百年も前から英文タイプライタが使用されており,タ イプライタなしのオフィスは考えられないのが実情である。近年,タイプライタにコンピ ュータが付いたワードプロセッサが実際に広く使用され,米国のオフィスオートメーショ ンはワードプロセッサの利用のことではないかとも言われている。  日本においてオフィスオートメーションを考える場合,少なくともこれと同等のことが 日本でもできる必要がある。 2) 日本語文章の入力  コンピュータで日本語の文章を扱う場合,入力と処理と出力とに分けて考えることがで きる。処理と出力については,英語に比べて難しいことは確かだがコンピュータの性能の 向上と記憶装置の価格低下の傾向により,やればできる範囲の問題になってきた。  しかし,入力はテクノロジーだけでは解決しない問題である。入力は知能の高い人間か ら知能の低いコンピュータ等の機械に人間の考えを伝えることである。認識能力のほとん どない機械には直接的な入力方法しか確実なものはない。コンピュータの世界では長い間 紙カードや紙テープが入力媒体として使用されてきた。これを作るのも鍵盤を人間が選択 して押す方式をとってきている。  日本語の文章入力装置はなかなか良いものがいままで無かった。和文タイプライタのよ うに漢字を一面にならべた漢字の入力装置はあるが,これはオフィスで一般の人が自分で 使って文章を作成するわけにはいかない。日本語の入力をオフィスオートメーションの一 環として考える場合,一般の人が使えないものでは役に立たない。望ましいのは通常のオ フィスで一般の人が文書を扱っている過程が,うまく乗るような装置の出現である。  それはどんな特性が必要であろうか? 現在,紙と鉛筆で文章を作成している過程を自然にサポートするもので,         ・自分が考えている文章を文字にして書きだす。         ・その書かれた文章を見ながらまた考えて次の文章をつくる。         ・入力装置は考えを進めるのに役だち,考えを中断したりはしない。         ・漢字かなまじり文が入力できる。 といった,ことが必要である。  現在,「音声入力」や「手書き漢字OCR」に期待する声がある。これらは応用を限っ て使用すれば効果はあるけれどもいずれもコンピュータによる認識を必要としており,オ フィスで使える文章の入力装置として汎用のものが使えるには相当時間がかかるものと考 えられる。 3) 日本語電子タイプライタ『OASYS 100』について  英文タイプライタで英語が扱えるように,一般の日本人が日本語の文章を扱えるように したのが,日本語電子タイプライタ『OASYS 100』である。  日本語の入力方式としては対話式かな漢字変換を用いており,かなで入力して装置にも っている単語の辞書により漢字に変換するものである。 a) かなの入力方法  かなは一般には,JIS配列の鍵盤が使われているが,実際に使用すると都合の悪いこ  とがある。  ・鍵盤が英文のように3列ではなくて,4列あるので鍵盤を見ないで入力するのは困難   である。     (かなはアルファベットより数が多い)  ・「ゃゅょっを」はシフト側なので2タッチ必要。(従来のコンピュータでは扱わなか   った。) 『OASYS 100』 では親指シフトキーボードと言う新しい方式を採用した。 これは,一つのキーに2文字を割り当て,その区別は親指を同時に打鍵することにより 実効的には60個のキーが英文タイプライタの鍵盤操作と同じ感じで使用できる。また 濁音も一度に入力できる。鍵盤の配置は言葉の出現頻度を参考にして決めたので,実際 に使用してみると使い易い。 b) 対話式かな漢字変換 この装置には単語の辞書がある。辞書には,最大約10万語の単語が収容できる。かなを 入力して「変換」と言うキーを親指で押すと,そのかなに対応する辞書を引いて漢字を直 ぐ表示する。日本語には同音異義語があるので,表示されたものが違う時は変換キーをも う一度押すと,次の候補の単語が直ぐ表示される。このように辞書のなかから単語を選ん で文章をつくる。選ばれた単語は同音異義語の先頭に置かれるので,次はその単語が最初 に表示される。普通の文書では,使用される単語は大体決っており一度選択すれば,あと はそれが最初に出るから殊更に同音異義語を選択する必要はない。 c) 辞書の登録 辞書には普通の言葉が6万語と固有名詞(人名,地名等)2万語を収容しているが,利用 者は自由に単語を追加登録することができる。また単語の長さは最大48文字なので,長 い言葉や文章も登録可能である。 d) A4判フルページの大型画面 ディスプレイは14インチを使用し,48文字×32行(1,536文字)の漢字を表示 する。通常オフィスで使用されるA4判の文書1頁分が,一度にディスプレイに表示でき る。文書を作る際には,その文書の全体の姿が見えることが必要である。 e) 校正・編集機能 『OASYS 100』は,ワードプロセッサとしての訂正,挿入,削除,移動,複写等 の機能を持っており,画面を見ながら自由に校正・編集を行なえる。 f) 文書管理機能 作成した文書はフロッピイディスク1枚に最大80頁まで記録して保管することができ, 後で取り出して修正したり印刷したりすることができる。 4) まとめ  オフィスオートメーションを考える場合,何も手段がなくて単なる工夫だけで生産性が 簡単に上がるとも思えない。μフィルムやファクシミリも手段としては有効だが,コンピ ュータの力が利用できないので決め手に欠けるうらみがある。そんな意味で文章を作成の 時点から扱える『OASYS 100』を使えば,オフィスオートメーションにとってか なり役立つと考えている。                                以上