日本語情報処理の標準化に関する委員会資料                              昭和56年 5月20日                           富士通株式会社  神田 泰典 「OASYS100」 の キ ー ボ ー ド と      か な 漢 字 変 換 方 式 に つ い て 1) 開発の目的 コンピュータを事務用の分野で広く利用するために、人とコンピュータとの対話に使用す る日本語入力として、英文のタイプライタ鍵盤のように使える日本語入力をめざして開発 し、日本語電子タイプライタ「OASYS 100」として商品化した。 2) 入力方法の選定 検討の結果、かな漢字変換方式による日本語入力を選んだ。 話し言葉に起源を持つ日本語の入力としては、「発音」から入力するのが好ましいと考え た。ペンタッチ等の漢字の入力方法は日本語によるコンピュータとの対話という意味では 使いにくいので除外した。 3) かなの入力方法 ・50音配列の鍵盤 ・カナタイプライタ ・英文タイプライタでローマ字入力 ・その他の方法  a)電総研 渡辺氏のキーボード等の方法  b)10本の指で、右で母音左で子音を打つ方法(53年情報処理学会全国大会3B−3) 調査の結果 1.50音鍵盤  5×10のマトリックス配置の鍵盤はブラインドタッチには都合が悪いので除外した。 2.カナタイプライタ 英文の入力に開発されたものを、かな入力に使っているため無理がある。 ・4行の配置になっていて、ブラインドタッチがやりにくい。 ・4行でも足りない。「ゃゅょっを」「、。」がシフト側になっている。 ・濁音はタッチ数が増えるうえに、「た」「゛」と入力するのは不自然なようだ。  昔は濁音を記述しなかったが、今や「だ」と「た」とは別の音である。 3.英文タイプライタでローマ字入力 ・2タッチ必要 ・かなを母音と子音で入力するのは、日常かなを使っている状況において不自然。 ・ローマ字には日本語を記述する方法が一義的でない。 ・記述するうえでの約束が必要。「ね」と「んえ」の区別、長音等。 ・何故日本語の入力にアルファベットを使うかという素朴な問いに答えることが難しい。 4.専用のキーボード  試作した専用キーボードや、ソクタイプの鍵盤のようなものは現状では普及させるには  困難が多い。 5.英文キーボードの機構 100年の歴史を経て残っているだけあって、英文タイプライタの8本の指で30個の鍵 盤を選ぶという機構は非常に良くできている。(文字の割付は問題としても) 親指は良く動く指であるのに、スペースバーだけに使うのはもったいないようだ。 4) 親指シフトキーボードの開発  下記のような条件を満たす新しいキーボードを開発した。 ・80種類程のかな文字を入力する必要がある。  あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよら  りるれろわをんがぎぐげござじずぜぞだぢずでどばびぶべぼぱぴぷへぽゃゅょっ。、 ・3行で打てることが必要 ・アルファベットも入力できることが必要。 親指シフトキーボード ・英文キーボードの機構を利用する。 ・親指との同時打鍵を利用して、入力する記号数を増やす。  左親指、右親指、親指なしと30個のキーの組合せにより、90個のキー位置がある。  濁音、半濁音、「ゃゅょっを、。」等は普通のかなと同じように1回でうてる。  親指シフトキーは1回の打鍵に1回だけ有効で、毎回かなに対応して打鍵する。 ・親指シフトキーを押さなければ,下側の文字が入力される。 ・同じ側の親指シフトキーを同時に押すと上側の文字が入力される。 ・反対側の親指シフトキーを同時に押すと下側の文字の濁音が入力される。 ・半濁音は半濁音専用のシフトキーと同時打鍵する。 ・カタカナは専用のカタカナシフトキー(ロック)により入力する。 ・アルファベットは英文の標準とし、英字シフトキー(ロック)を使用する。 文字の配置 1. かなの出現頻度を調査した。   ・国立国語研究所「電子計算機による新聞の語彙調査」から出現頻度と連接出現頻度   ・雑誌 言語生活「録音機」に掲載された日常会話から出現頻度と連接出現頻度 2.濁音になる文字はキーの下側に配列した。 3.頻度の高い文字の順にホーム行、上の行、下の行に配置するよう考慮した。 4.指の使用率は人差指、中指、薬指、小指の順に小さくなるように考慮した。 5.小指は動かさなくても済むようにし、小指を軸にして他の指を動かすようにした。 6.連続して現れる文字を考慮して、左右の指を交互に使うように考慮した。  また、同じ指、隣接する指を連続して使わないように考慮した。   かなの出現頻度と連接頻度のデータを別紙1に示す。 実績 ・親指と他の指との同時打鍵は予想していたよりも自然に打てる。 ・慣れると手についてしまって、自然な動作になる。 ・練習習熟曲線 一つの例を別紙2に示す。 ユーザの評判 ・初めは大変だが、慣れると非常に良い。 ・JIS鍵盤より良いようだ。 5) 対話式かな漢字変換  すでに作成された原稿を入力するのではなくて、考えながら入力するのにふさわしい方 法を検討した。かなで入力して対話式に漢字に変換して文章を作成してゆく方法で、瞬間 瞬間にはなるべく正しい日本語に近い形が表示される。  コンピュータとの対話を将来日本語で行う場合の「日本語コマンド」、「日本語プログ ラムの入力」等を考慮したときには考えながら入力することは重要である。 区切り方 ・漢字とかなの区別ではなくて、言葉の区切で行う。  丁度英語の単語をスペースで区切るのと同じ気持。 ・変換キーにより単語辞書を索引して辞書の単語を表示する。 ・無変換キーはひらかなのままにする。 同音異義語の判断 ・変換キーにより順に表示する。辞書の同音異義語は選択したものを先頭に置き、残りを  順に下げて書き直す。結果として、最近に使用したものから順に表示される。 ・ヒントを対話的に与えることができ、その後の変換で直ぐ利用可能。 ・単語の使用頻度は利用しない。最適の単語を確率情報で評価するのは難しい。 実績  親指シフトキーボードを使用して、対話式かな漢字変換で日本語の文章を入力してみる と、当初意図したような使い方が充分できることが確かめられた。                                    以上